とーもだちーがーでーきーたー♪

最後に日記書いたの一月も前なんですね。
時が経つのが早すぎて怖い。怖い。

さて、先日ダーリンと「すいかの名○地」という歌の話をしまして、何故か私一人で盛り上がってしまいました。その結果こんなのが出来上がったので置かせてください。







 春、恋をした。
 若草色の目をした人だった。柔らかい緑の中に金色が散る、少しだけ金属の冷たさを透かしたような瞳をしていた。それなのに、瞳を縁取る睫毛が揺れる度、色の薄い唇がそっと弧を描く度、僕の胸は熱くなった。

 でも彼女には恋人がいる。

 叶わないことは、分かっていたんだ。




「暖かくていい季節ね」

 初めて声を掛けられたのは、僕がようやく双葉からもう一枚葉を出した頃だった。
 土の上の世界のことは、まだ青空しか知らない。しかし、日々の気温の変化、風の匂いが変わる瞬間、朝の日差しの眩しさと夜の雫の冷たさ。そんなことだけは知っていた。
 季節なんて言われたって、僕はまだ春しか知らないよ。少しいじけてそう言うと、君はごめんなさいと微笑んだ。馬鹿にされたようで、僕は更にむきになる。

「まだ子供なんだから仕方ないだろう」
「子供だなんて。私の恋人だって、つい最近葉を出したばかりなのよ」

 えっ、と顔を上げる。
 改めて顔を見れば、悪戯が成功した幼子のような顔でその人が笑った。
 さらさらと風に靡く髪は美しいけれど、飛び抜けて美人なわけではない。しかし、昼下がりの太陽と同じ光を身に纏っているように見えた。

「お隣の畑。そこにね、私の恋人はいるの。生まれた時から結婚が決まっていたのよ」
「どんなひとなの」

 なんでそんなことを聞いたのだろうか。
 口から滑り落ちた言葉に驚いた。反射的に自分の唇を塞いだが、もう彼女の耳には届いてしまったようだ。

「いや、急に失礼なことを聞いてごめん」
「ーーー素敵な人よ」

 花弁がほころぶように、彼女の纏う空気が変わる。
 この世界で初めて見た花を思い出した。朝に開くごく薄い黄色、あの花はなんという名前だったのだろうか。
 目立たない花だった。しかし、蝶が蛹から生まれる時のような繊細さとときめきを抱いていた。

「今はまだまだ若いけれど、結婚する頃には背がうんと高くなるんですって。本人が言ってるだけだから、まるであてにならないけど」


 ーーー胸が熱い。痛い。苦しい。しかし、微かだが確かに幸福だ。皮肉なことに、僕は彼女が恋人を語る姿に恋をした。
 彼女には恋人がいる。きっと僕よりずっと似合う、素敵な人が。そう言い聞かせたけれど、鼓動は勝手に跳ねて僕の言うことなんて聞いちゃくれない。

「彼、背が高くなると思う?」
「そうだね、高くなると思うよ。君よりずっと」
「あら。それなら私はあまり伸びないほうに1票賭けるわ」

 結果的に、この賭けは僕の勝ちだった。



 5月。彼女は言っていた通り彼の隣で、純白のドレスを身に纏っていた。
 祝福の声と賛辞を目一杯浴びながら、ふたり並んで眩しいほどに明るい道を歩き、そして参列者へ一礼する。
 僕も参列者の列に紛れて、精一杯手を叩いた。

 幸せになれ。
 そう思うことだけが臆病者にも許されていたんだ。

 甘い砂糖を煮詰めすぎてすっかりカラメルを焦がしてしまったような僕の気持ちなんて露知らず、君はあの日と同じ悪戯な顔で微笑んだ。

「来てくれたのね、ありがとう」
「背が高くて、素敵な彼じゃないか」
「ふふ、賭けはあなたの勝ち」

 昔は私よりおちびさんだったのに、こんなに大きくなるなんて。
 花嫁の少し意地悪な言葉に、新郎は困ったような顔で笑った。

 やっぱり、僕よりずっとお似合いだ。
 背が高くて逞しく、金の目が美しい彼。彼女をとても穏やかな瞳で見つめ、そして目が合う度に頬を染めて、精悍な頬を緩める。文句のつけようのない青年だ。

「お似合いのカップルだよ」

 僕なんかより、ずっと。

 小さな花束を渡す。受けとるために伸ばされた彼女の左手に、桃色の混ざったシルバーの輪がきらめいた。

 この左手を掴んで、君を連れ去れたらどれほど幸福だろう。
 いつまで経っても少女のようなその笑顔が僕だけに向けられるものだったならば、土へ這いつくばってしか生きられない僕でも、この目も眩みそうなほどの青い空だって飛べそうなのに。

「せめてもの御祝いだよ。……どうか、末永く幸せに」

 涙は出なかった。やはり胸の奥は苦いけれど、少しだけ残された甘さが僕の救いだった。

 夏が来る。眩しく、激しく、痺れるほど甘い季節が来る。
 とろけるように笑う彼等が、どうか幸せな季節を過ごしますように。

 金色の花束へ願いを込めて。僕は不器用に笑った。








( ・ω・)<僕=すいか、彼女=小麦の花嫁、彼=とんもろこしの花婿

すいかのめーさんちー♪